『原色日本の美術』24

『原色日本の美術』24

『原色日本の美術』24,小学館,1971. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2526296 (参照 2025-12-19)

鈴木春信の「雪中相合傘」という浮世絵について基本データと作品の詳細を教えてください。
・基本データ(作者、作品名、ジャンル、技法、制作年、版元、ジャンル)
・作品の詳細(特徴や特筆すべき点など)
尚、不明な項目があれば不明と明記してください。
作品の詳細は分かりやすい文体で500文字以上700文字以内にしてください。

鈴木春信の「雪中相合傘」

基本データ

  • 作者:鈴木春信(すずき はるのぶ)
  • 作品名:雪中相合傘(せっちゅうあいあいがさ)
  • ジャンル:錦絵(多色摺木版画)、美人画、見立絵
  • 技法:中判錦絵、空摺(きめ出し)
  • 制作年:明和4年(1767年)頃
  • 版元:不明(画面上に記載なし)

作品の詳細

この作品は、世界で初めて多色摺りの木版画である「錦絵(にしきえ)」を大成させた絵師、鈴木春信による最高傑作の一つです。しんしんと雪が降り積もる中、一つの傘に身を寄せて歩く若い男女の姿が、叙情豊かに描かれています。

最大の特徴は、画面全体を支配する「白」と「黒」の洗練された色彩対比です。女性は白無垢を思わせる白い衣装をまとい、男性は黒い頭巾と羽織を身につけています。この対照的な配色は、単なるファッションではなく、古来より「烏鷺(うろ)」と呼ばれた、カラス(黒)とサギ(白)の組み合わせに見立てたものと解釈されています。二人が互いに見つめ合う視線からは、周囲の寒さを忘れさせるような親密さと、二人だけの世界に浸るロマンチックな情愛がひしひしと伝わってきます。

人物描写においては、春信特有のスタイルが顕著です。男女ともに華奢で手足が小さく、夢見るような表情をした中性的な姿で描かれています。これにより、現実の生々しさが消え、まるでおとぎ話のような幻想的な美しさが生まれています。

技法面でも非常に凝った趣向が凝らされています。特に、積もった雪や女性の着物の表現には、顔料を使わずに版木の凹凸だけで紙に立体的な模様を浮き上がらせる「空摺(からずり)」の一種、「きめ出し」という技法が用いられています。これにより、雪のふっくらとした質感や量感が巧みに表現されており、背景の薄墨色とのコントラストが、雪の白さを一層際立たせています。静寂の中に愛が灯る、江戸の冬の情緒を見事に切り取った名品です。

喜多川歌麿の「物思恋」

喜多川歌麿の代表作の一つ、「物思恋」についての基本データと詳細解説です。

基本データ

  • 作者:喜多川歌麿(きたがわ うたまろ)
  • 作品名:歌撰恋之部 物思恋(かせんこいのぶ ものおもいこい)
  • ジャンル:錦絵(多色摺木版画)、美人画、大首絵
  • 技法:大判錦絵、雲母摺(きららずり)
  • 制作年:寛政5年~6年(1793年~1794年)頃
  • 版元:蔦屋重三郎(耕書堂)

作品の詳細

この作品は、浮世絵の黄金期を築いた喜多川歌麿の全盛期を象徴するシリーズ『歌撰恋之部(かせんこいのぶ)』の中の傑作です。このシリーズは、古典文学の和歌にある恋の感情をテーマに、様々な立場の女性たちの表情や仕草を通じて、その内面心理までを描き出そうとした意欲作です。

「物思恋」という題名の通り、描かれているのは恋に悩み、深く物思いに沈む女性の姿です。最大の特徴は、女性の眉が剃り落とされている点(引眉)です。江戸時代、眉を剃ることは既婚女性の証でしたが、この艶っぽい雰囲気や崩れた襟元からは、単なる主婦ではなく、元遊女やわけありの女性、あるいは未亡人といった複雑な背景が想像され、見る者の想像力を掻き立てます。

構図は、上半身を大きく捉えた「大首絵(おおくびえ)」の手法が取られています。右手を頬に当てて視線を遠く彷徨わせるポーズは、恋しい人を待つ不安や、ままならない恋へのため息が聞こえてきそうなほどのリアリティがあります。わずかに開いた口元や、後れ毛の繊細な描写が、女性の無防備な色香を強調しています。

背景には、当時の最高級の技法である「雲母摺(きららずり)」が施されています。雲母の粉末を用いたこの背景は、光を受けて真珠のように輝き、人物を際立たせると同時に、画面全体に上品で華やかな空間美を与えています。紫の着物に千鳥の小紋という粋な装いと、ピンクがかった雲母の背景が調和し、歌麿が追求した「美人画の究極の形」が見事に表現された一枚です。

東洲斎写楽の「三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」

ご提示いただいた東洲斎写楽の代表作「三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」についての基本データと詳細解説です。

基本データ

  • 作者:東洲斎写楽(とうしゅうさい しゃらく)
  • 作品名:三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛(さんだいめ おおたに おにじ の やっこ えどべえ)
  • ジャンル:錦絵(多色摺木版画)、役者絵、大首絵
  • 技法:大判錦絵、黒雲母摺(くろきららずり)
  • 制作年:寛政6年(1794年)5月
  • 版元:蔦屋重三郎(耕書堂)

作品の詳細

この作品は、彗星のごとく現れ、わずか10ヶ月で姿を消した謎の天才絵師・東洲斎写楽の最高傑作であり、世界的に最も知られる浮世絵の肖像画の一つです。

描かれているのは、寛政6年(1794年)5月に江戸の河原崎座で上演された歌舞伎『恋女房染分手綱(こいにょうぼう そめわけたづな)』の一場面です。三代目大谷鬼次演じる悪役の「奴(やっこ)江戸兵衛」が、善人である一平から金を奪おうと立ちはだかり、凄んで見せる緊迫した瞬間を捉えています。

最大の特徴は、役者の個性を極端なまでに誇張(デフォルメ)した顔の描写です。鷲鼻に受け口、ギョロリと見開いた目といった特徴を大胆に強調し、当時の主流であった「役者を美化して描く」常識を覆しました。これにより、単なる似顔絵を超え、役者の内面にある悪のエネルギーや性格までをも表現することに成功しています。また、着物の袖から突き出された両手の構図は、今にも襲いかかろうとする動的な緊張感を画面に与えています。

背景には、雲母(きらら)の粉を用いた「黒雲母摺(くろきららずり)」という豪華な技法が使われています。鈍く輝く漆黒の背景が人物を際立たせ、闇夜に浮かび上がるような劇的な効果を演出しています。写楽のデビュー作(第1期)にあたるこの絵は、写実性とデザイン性が奇跡的なバランスで融合した、日本美術史に輝く金字塔です。

歌川広重の「木曽路之山川」

ご提示いただいた歌川広重の「木曽路之山川」についての基本データと詳細解説です。

基本データ

  • 作者:歌川広重(うたがわ ひろしげ)
  • 作品名:木曽路之山川(きそじのやまかわ)
  • ジャンル:錦絵(多色摺木版画)、風景画、団扇絵
  • 技法:木版画(団扇絵)
  • 制作年:天保14年~弘化4年(1843年~1847年)頃
  • 版元:伊場仙(団扇堂)

作品の詳細

この作品は、「雪の広重」と称される歌川広重が手掛けた「団扇絵(うちわえ)」の中でも、最高傑作の一つとして知られる名品です。題名の通り、中山道の最大の難所と謳われた「木曽の桟(かけはし)」を舞台に、深い雪に閉ざされた冬の厳しい自然を描いています。

最大の特徴は、広重の真骨頂ともいえる「雪」の表現と、研ぎ澄まされた色彩構成にあります。画面は鮮烈な「ベロ藍(プルシアンブルー)」の濃淡と墨の黒、そして紙の地色をそのまま活かした「白」のみで構成されています。しんしんと降り積もる雪の白さと、夜気や寒さを感じさせる深い藍色のコントラストが、音のない静寂な世界を見事に現出させています。断崖絶壁に架かる危うげな桟橋を、笠を傾けて黙々と渡る旅人たちの小さな姿は、自然の雄大さと旅の過酷さを物語っており、観る者を絵の中の凍てつく空気感へと引き込みます。

また、本作は通常の鑑賞用版画ではなく、本来は団扇の骨に貼り付けて使用するための実用品として制作されました。そのため、下部が丸みを帯びた特殊な形状をしていますが、広重はその変形画面の中に、険しい山岳風景をダイナミックかつ叙情的に収めています。消耗品である団扇絵は使われて捨てられることが多く、現存数が極めて少ないため、これほど保存状態が良く残っているものは大変貴重な美術的価値を持っています。

喜多川歌麿の「納涼美人図」

喜多川歌麿の「納涼美人図」

基本データ

  • 作者:喜多川歌麿(きたがわ うたまろ)
  • 作品名:納涼美人図(のうりょうびじんず)
  • ジャンル:肉筆浮世絵(肉筆画)、美人画
  • 技法:絹本着色(けんぽんちゃくしょく:絹地に岩絵具などで彩色)
  • 制作年:寛政6年~7年(1794年~1795年)頃
  • 版元:なし(一点物の絵画であるため)

作品の詳細

この作品は、浮世絵版画で一世を風靡した喜多川歌麿が、絵筆を振るって描いた「肉筆画」の最高傑作として知られる名品です(現在は千葉市美術館所蔵)。

描かれているのは、夏の蒸し暑い日に涼をとる一人の女性の姿です。最大の見どころは、歌麿の超絶技巧ともいえる「透け」の表現にあります。女性は薄手の黒い絽(ろ)の着物を身にまとっていますが、その黒い薄布を通して、下に着用している赤い襦袢(じゅばん)の柄や、白い肌がほんのりと透けて見える様子が見事に描写されています。

女性は着物の襟を少し寛げ、右手に持った団扇(うちわ)で風を送っています。その表情はどこか物憂げで、暑さに少し火照ったような色香が漂います。足元には、涼しさを演出するための石菖(せきしょう)を植えた銅製の水盤が置かれており、日本の夏の湿潤な空気感や、ふとした瞬間の静寂が画面全体から伝わってきます。

版画では表現しきれない、肉筆画ならではの筆の勢いや繊細な色彩のグラデーション、そして着物の柄(桜や流水模様など)の緻密さは圧巻です。新潟の旧家に大切に伝来していたもので、保存状態も極めて良く、歌麿の全盛期の画力を余すところなく伝える貴重な文化遺産です。

岩佐又兵衛による「官女観菊図」

ご提示いただいた画像は、岩佐又兵衛による肉筆画(手描きの絵画)の名品「官女観菊図(かんじょかんぎくず)」です。これは版画(浮世絵版画)ではなく、絵師が筆で直接描いた一点物の作品です。

以下に基本データと詳細を解説します。

基本データ

  • 作者:岩佐又兵衛(いわさ またべえ)
  • 作品名:官女観菊図(かんじょかんぎくず)
  • ジャンル:肉筆画(風俗画)、大和絵
  • 技法:紙本墨画淡彩(しほんぼくがたんさい:紙に墨と淡い色で描く)
  • 制作年:江戸時代前期(17世紀前半)
  • 所蔵:山種美術館(重要文化財)
  • 版元:なし(肉筆画のため)

作品の詳細

この作品は、「浮世絵の開祖」とも称される異才の絵師、岩佐又兵衛による代表的な肉筆画の一つで、国の重要文化財に指定されています。

1. 描かれている場面
御簾(みす)が巻き上げられた牛車(ぎっしゃ)の中から、身分の高い女性たちが、野に咲く白い菊の花を眺めている様子が描かれています。これは『源氏物語』などの古典文学にあるような雅な世界観を題材にしたものですが、又兵衛独自の解釈で表現されています。

2. 独特の画風「又兵衛風(またべえふう)」
最大の特徴は、女性たちの顔立ちにあります。「豊頬長頤(ほうきょうちょうい)」と呼ばれる、頬がふっくらとして顎が長く、しもぶくれの顔立ちは、又兵衛作品に共通するトレードマークです。一見するとアクが強いようにも見えますが、この作品では非常に繊細で上品な筆致で描かれており、高貴な女性の気品が漂っています。

3. 絶妙な色彩表現
全体は墨の線と濃淡を主体としたモノクロームに近い画風ですが、よく見ると女性の唇には鮮やかな紅が差され、画面全体にはうっすらと金泥(きんでい:金の粉を溶いたもの)が刷かれています。これにより、抑制された色数の中で、静謐かつ豪奢な雰囲気を生み出しています。

4. 作品の来歴
もともとは、福井の豪商・金屋家に伝来した「旧金谷屏風(きゅうかなやびょうぶ)」と呼ばれる六曲一双の屏風絵のうちの一扇でした。明治時代に屏風から切り離されて掛軸となり、現在は山種美術館が所蔵しています。古典的な題材を扱いながらも、人物の生々しい存在感や感情の揺らぎを感じさせる、又兵衛ならではの傑作です。


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